日本社会における長時間労働の健康障害や過労死が問題視されるなか、年々対策に取り組む企業が増えています。

企業の取り組みとして導入されている制度は、「ノー残業デー」などの時間外労働削減が知られていますが、企業によって取り入れている対策はさまざまですよね。

また、個人でできる対策として、十分な休息をとることや、長時間労働の実態や労働基準法などに関する知識を知っておくことも重要です。

この記事では、長時間労働の対策として企業が取り組んでいる事例や、個人でできる対策にはどのようなものがあるのか詳しく説明していきます。

目次

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長時間労働の対策の事例を紹介! 企業の例は?

長時間労働への対策を取り入れている企業には、どのような事例があるのでしょうか?

そこで、働き方や休み方の改善に取り組んでいる企業の例をいくつかご紹介します。

※厚生労働省が開設している「働き方・休み方改善ポータルサイト」に掲載されている企業の取組・参考事例を参考にしています。

URL:https://work-holiday.mhlw.go.jp/

長時間労働への企業の対策:トヨタ自動車株式会社

目的「柔軟な働き方への変革」を行うことで、仕事と家庭(育児・介護)の両立を図るとともに、生産性を上げることや個人の能力を発揮できる職場を実現していく。
取り組み・裁量労働制勤務、フレックスタイム勤務をベースとする職種の社員に在宅勤務制度を導入している。
・年次有給休暇取得促進のひとつとして「3Day Vacation」と呼ばれる有給休暇の取得促進を推奨している。
仕事と育児の両立支援に向け、柔軟な勤務時間制度を設けている。
・2002年より女性活躍推進に向けて、「女性社員定着」をテーマに取り組み、職場風土の意識改革を図っている。
心身の健康維持を目的とし、心理学専門スタッフによるサポート展開するとともに、職場のコミュニケーションツールを活用し、交流による気づきやモチベーションの活性化につなげている。
・特定子会社にて、さまざまな身体障害者や精神障害者を積極的に採用し、障害者雇用機会の拡充を行っている。
・女性技術者育成基金やプロキャリア・カムバック制度、正社員登用制度により人材確保の充実を図っている。

長時間労働への企業の対策:SCSK株式会社

目的 「働きやすい、やりがいのある会社」を目指し、ワーク・ライフ・バランスを推進するとともに、業務の効率化や生産性の向上を図る。
取り組み・2012年にフレックスタイム制と裁量労働制を導入。併せて残業半減運動を実施し、休暇の取得推進に向けた新しい休暇制度(バックアップ休暇)も導入している。
・所定外労働の削減や年次有給休暇の取得推進に向けた仕組み作り

「年次有給休暇取得日数20日、平均残業時間20時間/月以下」等を目標に掲げた取り組みに着手し、その活動により減少見込みの残業代を金額減資としたインセンティブ制度を導入、部門単位に応じた賞与加算を実施している。
勤怠実績や残業時間予測を会議で報告し、進捗度合いに応じて経営トップからのメッセージを社内ポータルに掲載する
・長時間労働の防止や、働き方改革の定着化を目指した施策

所定労働時間を10分/日短縮、バックアップ休暇を3日から5日へと拡充。また、長時間労働や休日出勤に対する賦課金制度や長時間労働者に関する改善報告書を導入している。
・仕事と育児の両立、両立支援制度や社内セミナーを拡充。また、女性社員の活躍を支援することを目的に、女性役員およびライン管理職を2018年には100名にするという目標を設定し、状況や課題に応じた研修を実施している。
・社員の健康増進施策

社員の健康維持・向上に必要な行動の習慣化の度合いや、定期健康診断の結果やその改善状況に応じてインセンティブ(賞与加算)を支給する「健康わくわくマイレージ」という制度を導入している。

長時間労働への企業の対策:三州製菓株式会社

目的「育児・家事・介護は女性の役割」という伝統的価値観、固定的役割分担意識を改革するとともに、女性の自己実現を支援する。
取り組み・計画的な年次有給休暇取得を促進(5日連続休暇を年2回取得の計画)
ノー残業デーの設定(月1回部門ごとに設定)
・所定外労働削減の意識醸成のためのポスター掲示
・所定外労働の事前申請制度
・多様な働き方の推進

在宅勤務制度(テレワーク)や短時間正社員制度の制定、正社員登用制度、育児・介護など労働時間に制約がある人も働きやすい柔軟性に富む勤務体系の整備を行っている。
・女性活躍・両立支援の推進

男女共同参画推進委員会の発足を行うほか、育児・介護休業の周知により仕事と家庭の両立を実践している。

長時間労働の対策を個人で行う3つのポイント

長時間労働の対策を個人で行う場合、自分の意識を変えるだけで、残業を減らすことができたり、自分の置かれている状況や問題を客観的に捉えたりすることができます。

また、長時間労働による心身の健康の喪失を防ぐために、自分自身で対策を行うことも一つの手段であり、大切なことだといえますよね。

では、個人で対策を行うには具体的に何をしたらいいのでしょうか?

個人でできる対策には限りがありますが、以下の3つのポイントを参考にしてみてください。

1.日頃から定期的に休息をとること

長時間労働が続くと、心身の健康の喪失を引き起こし、結果的に個人の生産性を低下させることにつながってしまいます。

これらを防ぐためにも、しっかり休息をとって心と体をリフレッシュすることで、仕事のパフォーマンスを向上させることは重要だといえます。

2.労働基準法などの労働に関する知識を把握しておくこと

労働基準法での労働時間や給与、労働環境等に関しての規定を知っておくことによって、自分自身の労働環境が法的にどのような状態にあるのかを把握することができるようになります。

3.労働時間を削減するために、自身の仕事の効率化を図ること

会社の仕組みを変えることはなかなか難しいですが、自身の仕事をいかに効率化できるか工夫したり、業務を客観的に見直したりすることで、結果的に労働時間を削減することにつながります。

また、集中する時間を決めるなどメリハリをつけることで効率化を図るという手段もありますね。

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長時間労働に対する政府の政策は?

政府、つまり厚生労働省は、長時間労働の対策に関するさまざまな政策(取り組み)を行っています。

厚生労働省の取り組みと法案

例えば、働き方の見直しに向けた企業への働きかけや、長時間労働が疑われる事業場に対して監督指導を徹底するなどの取り組みが挙げられます。

また、注目されているのが「働き方改革関連法案」です。これは、労働基準法をはじめとする関連法案の改正により労働時間法制の見直しなどが行われるため注目されています。

以下が、厚生労働省が行っている長時間労働削減への政策です。

長時間労働削減に向けた厚生労働省の取り組み一覧

長時間労働削減推進本部の設置

 長時間労働削減推進本部は、平成26年9月に長時間労働の対策としての取り組みを推進することを目的として、厚生労働省に設置された組織です。

これは、厚生労働大臣が本部長となり「過重労働等撲滅チーム」「働き方改革推進プロジェクトチーム」「省内長時間労働削減推進チーム」で構成されています。

 また、平成27年1月に、各都道府県労働局に労働局長を本部長とする「働き方改革推進本部」を設置し、長時間労働削減や年次有給休暇取得推進などの「働き方改革」について、労使団体への協力要請や情報発信等を行っています。

参照:厚生労働省 長時間労働削減に向けた取組 

https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html

日本再興戦略 改定2015

 日本再興戦略とは、第2次安倍内閣による成長戦略のことをいいます。

この改定2015は、平成27年6月に閣議決定され、アベノミクス第2ステージとして「長時間労働是非による労働の質の向上」や女性、高齢者などの活躍促進が取り上げられました。

 また、日本再興戦略 改定2015において、「働き過ぎ防止のための取組強化」が盛り込まれるほか、過労死等防止対策推進法に基づき平成27年7月に、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が定められるなど、長時間労働対策の強化を課題としています。

参照:首相官邸 これまでの成長戦略について

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kettei.html#saikou2015

過労死等防止対策推進法

 平成26年11月に施行された、過労死・過労自殺の防止に向けた対策の推進を国の責務として、必要な調査研究・啓発・相談体制の整備・民間団体への支援などを行うことを定めた法律のことをいいます。

参照:厚生労働省 過労死等防止対策に関する法令・過労死等防止対策推進協議会

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053525.html

「過労死等ゼロ」緊急対策

 「過労死等ゼロ」緊急対策は、過労死等を撲滅に向けた取組を強化する目的で3つのポイントを柱として、平成28年12月に発表されました。

1.違法な長時間労働を許さない取組の強化

2.メンタルヘルス・パワハラ防止対策

3.社会全体での過労死等ゼロを目指す対策強化

参照:厚生労働省 「過労死等ゼロ」緊急対策の取りまとめについて

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000147160.html

労働時間の適正把握の徹底

 平成29年1月に、「労働時間の適性な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定し、労働時間の適性把握の徹底を行っています。

参照:厚生労働省 「労働時間の適性な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

企業名の公表

 平成27年5月より、違法な長時間労働をさせている企業名を公表するという取り組みを行っています。

参照:厚生労働省 長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000172536.html

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律

 働き方改革関連法案が平成30年5月に衆議院で、同年6月には参議院でそれぞれ可決され成立したことによって、平成31年4月より、労働基準法をはじめとする関連法案の改正が順次施行されます。

この法案の改正が施行されることによって、時間外労働の上限規制が設けられ、定められた時間を超えて時間外労働や休日労働をさせた場合に、罰則を科せられることになります。

(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)

他には、年次有給休暇取得の義務化や、フレックスタイム制の見直しなど、働き方改革関連法案は大きく8つのテーマに分かれています。

参照:厚生労働省 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html

長時間労働の防止に効果のある対策を導入しよう

長時間労働の対策として企業が取り入れている事例や、個人でできる対策、政府の取り組みなどをご紹介しましたが、いかがでしたか?

企業の対策にはさまざまなものがありますが、実際に導入してみても効果を得られなかったというケースも多々あります。

そのため、長時間労働への対策を行う際は、まずは長時間労働につながる問題を視覚化することで、それぞれの問題に合った対策を行うことが大事ですよね。

また、厚生労働省が開設している「働き方・休み方改善ポータルサイト」には、他にもたくさんの企業の事例が掲載されているので、興味のある方は覗いてみてください。

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